石黒車で都内を出発。奥飛騨までのロングドライブだ。新島々駅手前のコンビニで下山後の着替え等を宿に送付した。寒気が入っており平湯のあたりでは雪に降られた。道の駅「奥飛騨温泉郷上宝」に午前2時過ぎに到着し、急いでテントを張って軽く宴会して午前3時に就寝。
6時に起きて朝食を取って支度をして出発。青空も見えて天気はまあまあだがG/Wとは思えない気温の低さだ。入山地点の飛越トンネルまでまだ車で1時間かかる。飛越トンネルの約2km手前で道路に残る雪のため車で進めなくなり、荷物をかついで出発。4日間のテントを含む縦走装備とスキーの板を担ぐとずっしりと重くて汗が出る。
10分くらい歩いた所で雪が繋がり、シールを着けて歩き出す。飛越トンネル手前からは、雪が多いため登山口と道路を隔てて反対側の尾根に直接取り付いて登りだす。稜線上のアップダウンを少し外した絶妙のトラバースルートを取った先行トレースがあり、これを使わせてもらってかなり楽をする。進行方向の先の方は常に雲がかかっているが、何故か頭上は常に晴天で気持ちよく歩けた。足前の揃った3人なので誰も遅れず良いペースで進む。ここまで視界は良好だったが、北ノ又岳の上部は雲の中で真っ白で視界が無い。
15時前に山頂を巻いた北側の尾根に到着して、シールを外して滑走の準備をしている間に吹雪になった。手が凍りついたようになり、あわててスキー用のグローブを着ける。
雪とガスで視界が無い中、石黒さん先頭に滑り出すが、真っ白で斜度も判りづらい状況。途中から徐々に視界が良くなり、快適な緩斜面を太郎山の手前まで一気に滑る。
スキーを履いたまま太郎山の緩い斜面を登り、GPSで慎重に方向を確認しながらしばらく歩くと突然太郎平小屋に出てようやく安心。睡眠時間3時間で、重たい荷物を背負って飛越トンネルから7時間で小屋に到着した。
今日は宿泊者も10数名と少なく、小屋の中は冷蔵庫の中のような寒さだ。3人で一部屋確保できたが、寒いので暖かい食堂でビールで乾杯。食堂はストーブが燃え、コタツも2つあって快適だ。ここで山と渓谷社の取材を受けたので来年4月号に我々のインタビューと写真が載るかもしれない。夕食のおかずは揚げたての天ぷら+数品で美味しかった。
食堂ではdocomoの携帯電話が通じたがAUは圏外。本州の山ではAUは弱い。AUもっと頑張れ! TVで見た天気予報では翌日まで寒気が残る予定だが、その後は高気圧に覆われて安定した晴れが期待できる。石黒さんと藤澤さんは夕食後の19時頃から寝てしまった。上林は21時の消灯まで食堂のコタツでごろごろしてから寝たが、布団も冷え切っているので、布団の上に毛布を敷き、寝袋に入って、さらに毛布と布団をかけて朝まで熟睡した。
(上林 記)
朝から快晴で冷え込みは厳しい。小屋の朝食は6:00から。出発前に今晩用にビールを1本ずつ購入する。予定通りに行けば高天原温泉で乾杯できるかも。今日はこのツアーの核心となる日だ。その割にはのんびり準備をしているうちに出発は8:00になる。
シールを付けずに薬師峠まで。薬師峠からの登りは最初からクトーを装着する。雪面はかなり固いが、その分クトーが良く効き快調に登る。薬師岳山荘で小休止。登りすぎないうちにトラバースして東南尾根に乗る。雪面は相変わらずカチカチだが幅が広く傾斜も緩やかなので歩きやすい。
快晴だが尾根上はかなり風が強い。2855mピークまでは順調だったが、その先は尾根が狭まり、ところどころ雪が切れているところもあるので時間がかかる。細かいアップダウンを繰り返しやっと尾根の末端付近に到着。予定よりかなり時間を要した。振り返ると鋭く巨大な雪庇が張り出していて、良くこんなところを来たなという感じ。
薬師岳東南尾根を振り返る
黒部川に降りることができずにこの尾根を戻ることを考えると気が滅入る。黒部川を挟んで雲ノ平、その先に槍ヶ岳が見える。黒部川の険しい崖を挟んだ対岸の夢ノ平は別天地のようだ。
対岸に雲ノ平、中央やや左に槍ヶ岳
最初は2605mからダイレクトに降りるルンゼを滑ろうかと思ったが、上林さんの提案で一段下の若干傾斜の緩そうなルンゼを降りることにする。エントリー地点はちょうど雪庇が切れている。上から覗き込むと急斜面だが滑れない傾斜ではない。雪質も安定しているようなので意を決して石黒が先頭で滑り込む。
少し堅めだがエッジは効く。途中から左手の沢状地形に入る。一見するとデブリもなく綺麗な斜面だったが、途中から強烈なモナカ雪になる。
東南尾根末端から黒部川へ 手強いモナカ雪
格好は二の次、安全第一で高度を落とす。最後の100mくらいでやっと滑りやすい湿雪になる。ともかく全員無事に黒部川のスノーブリッジに降り立つことができた。すぐ下流に写真で見た立石奇岩がそびえている。恐らく今後見ることがないであろう景色を堪能した。
黒部川スノーブリッジ 後方に立石奇岩
振り返って滑ってきた斜面を見あげると崖のようだ。かなり時間が押しているので記念写真を撮って早々に出発する。ここまで来たら後は岩苔小谷を徒渉してテン場(温泉)まで移動するだけだと思ったが大間違い。上林さんの先導で急な斜面を登って細い尾根に到着。明日滑る予定の水晶岳が見えてくるがとても登れそうもない。
今日はハードコースだったので水晶岳は次回(いつだ?)の課題とし、早くも明日は日和ることに決める。尾根を少し降り、沢状地形を滑っているとだんだん傾斜がきつくかつ狭くなってきて、最後はスキーの幅もないシュートになる。一旦尾根に逃げたが行き詰まり、結局この”死の滑り台”を降りるしかないようだ。
岩苔小谷へ
お互いをフォローする余裕もなく各自の技量を信じて降りる。上から誰か落ちてきたら一緒に滑落するしかない。なんとか危険地帯を通過し沢に降り立つ。すぐに後に藤澤さんが続くが上林さんがなかなか来ない。後で聞いたらスキーを脱いで下ろうとしたが無理だったそうだ。
岩苔小谷にはスノーブリッジは既になかったが、少し下流の倒木を伝わって濡れずに渡渉に成功。
岩苔小谷渡渉
後は温泉まで標高差300mまで登るだけ・・・、と思ったらこの先も試練は続く。素直には登らせてくれない斜面が続き、だんだん薄暗くなってくる。石黒はエネルギー切れに機材トラブルが重なってヘロヘロになる。こんなに疲れたのは久しぶりだ。二人を待たせたがなんとか登り切って高天原の縁に到着。
残念ながら今夜の温泉三昧は諦めてここにテントを張ることにする。温泉は明日にお預けだ。夕食前に我慢できずにビールで乾杯。心に染み入るおいしさだった。メインディッシュの「香るチキンカレー」はさすがに一人前400円だけあってスパイスが効いておいしかった。
藤澤さんの巨大なザックからはいろいろなおつまみが出てくる。ビールも隠し持っていないかと期待したがさすがに持っていなかったようだ。明日は休息日とするが、最終日の行程短縮のために岩苔乗越を越えて黒部源流まで移動することに決定。到着が遅かったので寝たのは23:00頃。長い一日だった。前夜と異なりあまり気温は下がらず寝苦しいくらいだった。
(石黒記)
明け方は思ったより冷え込まなかった。モルゲンロートの薬師岳が鮮やかだ。昨日の行程が思いの外時間がかかりハードだったので、水晶岳への予定はやめて、今日はできるだけ先に進むことになった。三俣山荘付近まで行ければ最終日がかなり楽になる。上林さんが作ってくれた乾燥野菜とチャーシューたっぷりの棒ラーメンを食べてから、シールで出発する。
早く温泉に入りたいのか石黒さんの足取りが速い。硫黄の匂いがしてきて間もなく、沢の向こうに湯気が立ち上っている。板を脱いで沢を渡る。石とコンクリートでできたしっかりとした湯船にホースで温泉が引かれている。ちょっと熱いので、スコップで辺の雪を入れてから、飛び込む。3人で丁度の広さ。湯の花が漂っている。程よく日も当たり山の中で至福のひと時だ。ずっと浸かっていたいが先に進む。
高天原温泉 快適でした
沢を少し上って、樹林帯をしばらく歩くと高天原山荘が現れる。池もいくつか顔を出していた。2170m付近で一休みした後、トラバースして岩苔小谷の沢床に降りる。広くて緩く上りやすい沢だ。日も指し、左手上部の急峻な水晶岳が格好よく、二つのピークがはっきり見える。
見ただけの水晶岳
2400m付近で休んでいると上から男女6人のグループが滑り降りてくる。男女3人ずつ、女性の1人はスプリットボードで他は山スキー。昨夜は双六の冬期小屋に泊まって今日は温泉沢まで行くそうだ。三俣山荘付近は風がかなり強かったので、テントを張るならその下の黒部源流付近の方がいいのではとアドバイスをもらう。
話をしているうちに陽は陰り、出発する頃には雪がちらつく。岩苔乗越手前で雪面はかなり硬くなり辺りは真っ白。クトーを付けてしばらく上るが、斜度も増し雪面が増々硬くなり滑ったら止まりそうがないので、歩行アイゼンに替えて上る。アイゼンの歯はしっかりと効いてくれた。ところどころ柔らかいので踏み抜きに注意して上る。
乗越ポイントには先ほどからオレンジ色のツエルトらいしいものが見えていて、誰かが雪洞を掘っているようだ。最後に少しトラバースして雪洞の前にたどり着く。中には男性一人がいたので、一言挨拶をして横へのトレースをたどり尾根を乗越す。そこには雪洞男性のテレマーク板が置いてあった。
風があまりないので、ここでシールを外し滑走準備。雪はさらに少し強くなったようだ。条件が良ければ快適そうな斜面だが、視界の悪い中カリカリの斜面を滑る。途中ひと休みし振り返ると祖父岳からの急斜面がせまる。滑るにつれ雪は柔らかく重たくなる。黒部源流碑がある辺の平で安全そうな場所を幕営地に決める。
夕食は、昨夜に続いてのサラミソーセージと春雨ワカメサラダ明太子味に加え、サンマの煮物、タケノコの煮物、マーボー春雨、ドライカレー。ビールは担げなかったが、ワインとウイスキーで疲れを癒す。雪は量は少ないが夜まで降り続いた。
(藤澤 記)
5時に起床し、アルファ米+スープの朝食を取って出発。快晴のため放射冷却で気温が下がり、テントの本体の内側は霜が張り、フライの内側は凍ってバリバリだった。昨日は天気が悪くて判らなかったが、山に囲まれた素晴らしいテン場だった。ここはまさに黒部川の源流だ。小さな沢を渡って、最初からクトーを付けて三俣蓮華岳に向かって登りだす。昨日まで風が強かったようで、斜面は固い所が多い。
三俣山荘を左下に臨む急斜面を登っている途中で、キックターンをするために左足を開いた時にクトーが刺さらずスキーがスリップし、板を開いたまま前に倒れてしまった。全体重と荷物の重みがおでこにかかった状態で固い斜面におでこから落ちて、首筋に激痛が走る。1mほどスリップして止まったが、激痛でしばらく動けなかった。一瞬「ヘリ呼ばないと駄目かな」と思ったが、少し休んだら首に痛みが残るものの動く事ができて、以後行動にそれ程支障はなかった。
その後は慎重に登ったが絶好調の石黒さんと共に三俣蓮華岳の北側の尾根に出てしまう。三俣蓮華岳への稜線はとても固そうなので登頂は諦め、一旦シールを外して、カールに滑り降りて再びシールを付けて歩きだす。尾根からの景観は素晴らしかったが30分以上の時間のロス。
三俣蓮華岳下から槍ヶ岳
三俣蓮華岳から双六岳への稜線を右手に見ながらカールをトラバースするが、稜線は雪庇が張り出していて稜線に出られそうに無い。今後のルートについて3人で協議し、とりあえずトラバースを続けて丸山から東に伸びる尾根を乗っ越してみると、双六岳から双六小屋に伸びる尾根を右手に見ながらトラバースで行けそうなので、そのまま尾根に乗るまでトラバース。尾根に乗った所から双六小屋までは快適なザラメの斜面で、久しぶりに快適なスキー滑走ができた。
双六小屋で大休止して双六谷を滑走。ここも快適な緩斜面だった。途中 双六岳からの南東の沢と合流するが、ここも快適に滑れそうな斜面。
大ノマ乗越に登り返す2190mから最後の登りにとりかかる。つぼ足で登ったトレースがあるが、シールで登れそうなので行ける所まで行ってみる事にする。上林はトレースのある沢沿いに、石黒さんと藤澤さんは途中から右手の尾根の方に巻いて上がった。沢の中は遮る物の無い標高差400m以上の大斜面なのでかなり緊張したが、何とか大ノマ乗越までシールで完登。
大ノマ乗越には鏡平に行くという登山者が2名いて、久しぶりに人に会った。大ノマ乗越からは槍ヶ岳から続く穂高連峰が目の前に見えて絶景だ。石黒さんと藤澤さんが少し遅れて到着。途中から斜面が固くなり大変だったようだ。大休止の後 秩父沢の標高差1000mの最後の大滑降。中段まで少し深い急なザラメの斜面で難儀したが、中段より下は割と快適な斜面だった。全体的にデブリもほとんど無く とても綺麗な大斜面だった。
左俣林道と合流してからも雪は繋がっており、ワサビ平小屋の少し先で一旦雪が切れたが、その後 林道の山側に残った雪を繋いで穴毛谷付近までスキーで滑れて楽ができた。20分程度板を担いで歩いて新穂高温泉に到着。
最後の最後で 藤澤さんが自信を持ってバス停までの道を間違えてくれたが、まあご愛嬌。長い道のりだった。ちょうど15:55発の高山方面のバスに乗れて、本日の宿がある新平湯温泉に向かった。
宿でビールで乾杯して、ゆっくり風呂に入り、久しぶりにゆったりしたひと時を過ごす。宿は女将が愛想が無い事を除けば、部屋も風呂も食事も良くて快適だった。
(上林 記)
ゆっくり起きて、風呂に浸かり、朝食をとる。朴葉味噌と玉子かけごはん。荷物は宿に置かせてもらい、8:23のバスで神岡に向かう。陽の当たる中我々を含め6人程度の乗客。神岡のバスターミナルで降り、停まっていたタクシーに乗り換える。運転手は丁寧な対応だった。
距離は短いが時間のかかる山道と、距離は長いが時間は短い広域農道の2つのルートがあるとの説明。行きと同じ山道からでお願いする。1時間ほどかかり車に到着。来た時から道の雪解けはかなり上部へと進んでいるようで道の雪はほとんどなくなっていた。広域農道を通り宿へ戻り、荷物を回収し帰京した。中央道は多少の渋滞があったものの、大型連休最終日としては大したことがなかった。
(藤澤 記)
【リーダーから】
好天と何よりもメンバーに恵まれて私の実力以上の所に行くことができました。信頼できるメンバーとは困難な場面でもお互いに協力して乗り越えていけるものだなとあらためて感じました。とても貴重な経験ができました。上林さん、藤澤さん、ありがとうございました。
【備忘録&その他】
・飛越トンネルに行くには神岡まで行かずに双六川沿いの広域農道の方が快適。
・松本から先はコンビニは無いと考えた方が良い(神岡にデイリーヤマザキはあるが営業時間は?)。
・太郎平小屋グループfacebook:http://www.facebook.com/taroudairakoya
連絡は五十島商事 076−482−1917、1泊2食:8800円。
ビール350ml:500円、ペットボトル(500ml):200円、お湯(500ml):100円
室内にコンセントがあるので(たぶん)携帯充電可。
食事付きの場合、食堂のお茶はタダ。
・奥飛騨温泉郷・新平湯温泉 お宿 いちだ:http://www.ichida.gr.jp/
温泉も食事もかなりお勧め。ただ女将の対応がちょっと・・・。
・平湯温泉から神岡バスターミナルまでのバス料金は1400円くらい。
・神岡バスターミナルから飛越トンネル2km手前までのタクシー料金は約10000円。
濃飛タクシー:0578-82-1111、http://www.nouhibus.co.jp/taxi/index.htm
宝タクシー:0578-82-1313
【食糧計画】
5月3日(金) 高天原
夕食:アルファ米(白米 2食分 x 2)、アマノフーズ 香るチキンカレー×4
5月4日(土) 高天原
朝食:山の棒ラーメン×4、ラーメンの具、チャーシュー
夕食:ドライカレー(アルファ米)×3、マーボー春雨(+乾燥野菜、ベーコン)
5月5日(日)
朝食:ピラフ(アルファ米)×3食、スープ
※水は主に雪を溶かして調達したが、ガスカートリッジは250サイズを1.5個消費。
※行動食は各自持参、夕食時には副食類を適宜持ち寄った。