前夜、「スーパーあずさ」で新宿を発ち、塩尻から最終普通列車に乗り継いて木曽福島に23時過ぎに到着する。予約のタクシーで伊奈川ダムの先のゲート駐車場で仮眠。翌朝、続々と車が入ってきていた。出発準備をしていたら、声をかけられて驚く。知り合いのグループがマイクロバスで来ていて越百山へ向かうとのこと。山の世界は本当に狭い!
ゲートから林道を2時間弱歩いて伊奈川本谷に向かい、取水ダムから入渓する。入口はうす暗いゴルジェで、左岸をたどっていくとやがて周囲が明るく開けてくる。水量はアルプスの沢らしくそれなりにある。大小の石を飛び歩き、冷たい急流の渡渉を繰り返す。初心者向きの沢だが行程が長く標高差も1800mあり体力が必要である。金沢出合で昼食そうめんタイム。やっぱり、沢ではそうめんだよねと大満足。三ノ沢出合を過ぎたあたりで、希さんの沢靴の異変に気付く。底が剥がれかけていたのだ。とりあえずひもで縛ってテント場まで凌ぐことにする。テント場を求めて歩くと七曲沢出合に格好の場所を発見。草が茂っていたが、のこぎりの威力であっという間にいいテントサイトとなる。
たきぎを集めてお楽しみの始まりである。ヴォルフはしっかり入浴ならぬ入水して、すでにさっぱりさわやかとか。たっぷり飲み食いしていいこころもちになったころ、激しい雷雨がやってきてタープに一時退却。の、はずがまだ5時すぎだったのにそのまま翌朝まで熟睡してしまった。
すると村上さんが「猪俣さんゴメン。冷やしてあったビールが流れちゃった」と衝撃の告白。「エエッ!ウッソー!」とガッカリしたのだが、すかさずヴォルフが「あるよ!」 夜中に流れていたのを拾ったとのことでヴォルフが神様に見えた一瞬だった。1時間ほどの雷雨でタープに迫る増水だったとか。知らないで呑気に熟睡していたのだ。
出発してほどなく希さんの沢靴の調子がやはり悪い。ヴォルフが上手に編みこんでバッチリかと思われた紐も外れてしまっていた。稜線にでるまではなんとかもたせなくてはならないので、何度か締め直しながら進むがやはりかなりのロスタイムとなる。沢は傾斜を増してどんどん高度をあげていく。周囲は高山の雰囲気が漂うようになる。当初は沢をまっすぐ詰めないで、三ノ沢岳よりにルートをとるつもりだったが、気がつくとポイントを通りすぎていて、3段50mの滝についた。カール底から流れ落ちる本谷唯一の滝だが、階段状で快適に登れる。
滝の上は情報どおりカールのお花畑でまさに楽園だ。沢を素直に詰めると藪こぎはないらしいが、三ノ沢岳からは遠くなるので左にトラバースすることにしたが、はい松藪に手こずらされる。
ようやく縦走路にたどりつくと人が行列で驚いた。三ノ沢岳は人気の山なのだ。三ノ沢岳についたのはすでに午後1時だった。
頂上から先は再び喧騒を離れる。頂上からしばらくは道があったが、急下降が始まると猛烈なはい松藪になった。それでも下りなのですこしは救われる。途中、旧登山道の跡を踏むことはあったがおおむね、しっかりとした藪との格闘となり時間がかかる。中三ノ沢岳の一つ手前のピークに登ろうとする鞍部に手ごろなビバークサイトをみつけたのでタープを張った。
朝からシビアな藪こぎとなる。倒木帯も現れ苦行が続くが、二ノ沢のコルは草付きで幕営適地だ。
確認はできなかったが下れば水も得られるそうだ。2338mピークは資料によって諸説あるが三角点があり独標とも蕎麦粒岳とも呼ばれている。展望は抜群で360度のパノラマが広がる。越えてきた三ノ沢岳が高い。ここからは踏み跡が顕著となり、道のありがたさを痛感する。独標から最後のピークの風越山までは4時間ほど。頂上で携帯でタクシーに予約を入れ一安心。下山を開始すると雲行きが怪しくなってきた。途中からポツポツと降り出したので先を急いだ。ようやく林道に飛び出して、間に合ったかと思ったら、まだタクシーはきていなくて残念無念。
けれど、念願の縦走が果たせて充実感一杯。温泉で締めくくって大満足。落雷で中央線が不通になり、長野経由新幹線利用となるおまけもついて帰京しました。
(猪俣 記)