朝方神岡は小雨でどんよりと曇っており天気予報も終日雨とのことだったので、どうしようかと三人で迷っているうちに出発時間が遅くなってしまった。道路は飛越トンネルの1キロ手前で雪のためストップ、そこでタクシーを降りる。20台近い車がすでに駐車していた。2年前に同じ飛越トンネルから入山している田中さんの話だとそのときは4キロ手前までしか車で入れなかったということでやはり今年の残雪は少ないとのことだった。
6泊7日の荷物とスキーを担いで9時に林道を歩き始める。トンネル手前から右側の尾根に取り付き30分程歩いた後にシールをつける。もっと歩くものと覚悟していたが、シールが使えるようになって一安心。(木村注:ここで、昔、会員だった棚田夫妻に出会う。このあと、黒部五郎岳まで、行動は別だったが、同じようなペースで辿った。)
それにしても6泊7日の荷物は肩と腰にどっしりと重い。1842Mのピークを12時丁度に通過。ここで進路を北東にとり寺地山を目指す。このころから小雪が降り出す。12:40に1918Mのピークに到着。ここまでは順調だったがこの先が長かった。ヤセ尾根のアップダウンが続き思ったように距離が稼げない。寺地山を経由して14:45に北の俣避難小屋着。
予定よりも時間が遅くなってしまったので小屋の定員オーバーになっていないかどうか心配しながら入り口のドアをあけたら、中にいたのは3名だった。その3名の中になんと土屋さんがいた。土屋さんは単独別行動ながらこのあと黒部五郎小屋での4泊を一緒に過ごすことになる。このあと2日遅れで長坂班も入山することになっていた。
夕方、1名小屋に入ったので、この日の宿泊者は合計7名。夕食の鍋を食べ8時過ぎに就寝。
5時起床。昨晩の鍋のスープにご飯を入れおじやの朝食を食べ.る。7時出発。天気は快晴。北の俣岳への600Mの登りにかかる。北の俣の稜線にあがると目の前に大パノラマが拡がる。今回のツアーの後半に滑る予定の薬師岳、明日の予定の雲の平・祖父岳、これから登る黒部五郎岳が目の前に聳え立っていた。北の俣岳から中俣乗越まで尾根の東側を大トラバースし11時に到着。
そこからはほぼ尾根を歩いて12時に2555Mのピーク着。ここから黒部五郎の300Mの登りがつらかった。室岡と田中さんは最後の150Mの登りを歩行アイゼンで直登したが、木村Lは最後までスキーだけで少し北側から回りこむようにカールの上部まで登った。室岡が疲れきっていたせいでアイゼン組は木村Lに遅れること1時間弱でカール着。
木村Lと赤木岳から赤木沢を滑って登り返してきた土屋さんが稜線の強い風を避けるように一緒に待っていた。2人は体をすっかり冷やしてしまったようで、早速シールをはずし滑降に入る。土屋さんを先頭に、木村L、田中さん、室岡の順でドロップイン。時間はすでに2時を回っており雪はすっかり腐っていた。おまけに滑り出しは急斜面、ドロップインという言葉がぴったりの滑り出しだ。が、あっという間に急斜面が終わり、あとはひたすら小屋を目指してトラバース。
15:30黒部五郎小屋着。すでに4人ほど2階に陣取っていたので、我々は下に入ることにした。1階の入り口が雪に埋まったままだったので小一時間ほどかかって入り口を掘り起こし、4人が収まるくらいの広さの中2階に入る。まずはお茶を沸かしてくつろぐ。五郎小屋にほぼ予定通りに入れたことでほっとする。このあと夕食のカレーを食べ、翌日のコースの打ち合わせを行う。今回の山行は各自が希望のコースを事前にいくつか出しており、当日の状況に応じて決めることにしていた。翌日まで天気はよさそうだったので、三俣蓮華から祖父岳に上がり祖父沢を滑って五郎沢を登って戻るコースに決定。8時就寝
北の俣避難小屋にて
カールを滑る田中さん
黒部五郎小屋到着
本日も快晴。朝食にラーメンを食べ7時出発。1時間かかって最初のピーク(2620M)着。ここからは昨日と同じ大パノラマだ。これから目指す岩苔乗越もくっきりと見えていた。尾根通しに2661Mのピークまで歩き、そこから三俣蓮華岳の山頂に登らずに北尾根から三俣山荘に滑り込む地点を目指してトラバース。北面で部分的に少し硬いところもあったが、苦労もせずに北尾根の肩に立つ。尾根筋はさすがにアイスバーンになっており、少し東側に回りこんでからシールをはずして、まず眼下に見えている三俣山荘目指して滑り込む。雪質は適度のやわらかさであっという間に山荘着。そこからさらに黒部源流の沢底まで快適に滑る。(木村注:尾根筋から源流に滑り込むのもいい斜面だ)
このあとシールをつけ岩苔乗越へ向かう。最初は沢筋を詰めていったが少し西側の斜面のほうが登りやすそうだったので2500M位からそちらに取り付いて直接2760Mのピークに上がりあとは稜線を歩いて12:00に祖父岳着。山頂は風も弱く360度の大展望だった。はるか下のほうに土屋さんが登り返してくるのが見える。12:20滑降開始。北尾根を祖父沢の源頭に滑り込む。山頂付近は2日前の新雪が適度にパックされてとても快適な滑り出しだ。思わず嬌声をあげてしまう。途中で山頂を目指す土屋さんとすれ違う。
200M程滑ったところで進路を西側にとり、このあたりから明確になる祖父沢の沢筋に滑りこむ。雪が徐々に重くなる。あとは黒部川の合流点目指してこのまま下るだけ。ただ、心配なのは黒部本流の雪の状況、合流点で越せるのかどうかだ。そんなことを思いながら滑っていると、下から登ってくる2人組みに会う。近づいて黒部川の雪の状況を聞いてみると、トレースをたどっていけば祖父沢の合流点で越せるとのことで一安心。途中、出会いの手前にテントが張ってあった。トレースをたどっていたら気がつかないうちに祖母沢の入り口も見逃し、黒部本流を渡ってしまっており(田中さんを除いてだが・・・)、後は五郎沢を詰めて14:45黒部五郎小屋着。
この日の宿泊者は我々4人だけだった。前日の1階から日当たりがよく居心地のよい2階に移動する。シールを干したり後片付けをした後にビールで乾杯。このあと室岡が体調不良(原因不明の吐き気)になってしまいダウン。夕食のマーボー春雨も食べずに朝まで寝込んでしまう(その分は、土屋さんがしっかり食べました)。
黒部五郎岳をバックに三俣蓮華岳へ向かう
雨のため停滞。
10時ごろ2人組が小屋に入ってきた。前日に祖父沢で会った人達だった。五郎沢出会いにテントを張っていたが天気が悪くなったので小屋に避難してきたとのこと。松本のシーハイルという山スキークラブのメンバーで、前日はカールから五郎沢出会まで滑り、祖父岳の後にイワナ釣りをしたと話していた。この後、今回の山行のこと、昨日のイワナ釣りのこと、お互いのクラブのことやその他いろんなことを話して小屋での長い一日を過ごす。
外は雨からみぞれになったりまた雨になったりで、天気予報でも回復の見通しなし(木村注:木村の無線機のラジオはまったく感度なし。携帯電話のラジオは辛うじて入感あった。シーハイルのラジオで天気予報を聴いた)。
シーハイルの2人組
雨とガスため停滞。風も強い。午後から天気が多少回復したので、2時過ぎから滑り班と釣り班に分かれ行動。滑り班(木村L、田中、シーハイル2人組)は小屋の西側の斜面と東側の斜面を1本ずつ滑る。釣り班(土屋、室岡)は本流に下りていき、借りた道具一式で夕飯の食材のイワナを人数分確保し小屋に戻る。
夕飯はイワナの刺身、イワナのホイル焼き、イワナ汁で、シーハイル2人組と一緒に飲み、食い、大いに盛りあがる。山小屋ならではの愉しい一晩となる。
夜、星が見える。天候回復の予感。
晩の食料になったイワナ
5時起床。黒部五郎を超えるので少しでも雪がやわらかくなってからということで遅めの8時出発。昨日の風が収まらなかった場合はトラバースしてカールから越えることを申し合わせていたが、風も収まる、稜線を黒部五郎に向かう。小屋からしばらくはそうでもなかったが上に行くにしたがって雪面が硬くなりクトーを蹴り込むようにしながら登る。1時間半ほど登った2500M地点でトラブル発生。室岡のクトーの止め金具が壊れてしまいクトーが使えなくなってしまう。ここから3人共歩行アイゼンに切り替え10:50黒部五郎の山頂に到着。
山頂では、早朝太郎平小屋から上がってきたという人が3人ほど休んでいた。雪が緩むのを1時間近く待っているとのことだったが、山頂直下は緩む様子もなく暫くして滑っていった。我々も20分ほど休んだあとに滑り始める。頂上直下の雪面はエッジが立たないほどではないが硬く慎重に滑る。100M程下ったところでようやく雪面がやわらかくなり、快適に滑れるようになった。
黒部五郎の斜面を滑りきったあたりで先行していた木村Lと田中さんが誰かと話しているらしく、近づいてみたらなんと長坂さんと阿部さんだった。我々よりも2日遅れて飛越トンネルから入山し悪天のため北の俣避難小屋に2日間足止めをくらったとのことだった。暫く話した後に2人は黒部五郎小屋を目指して我々が滑り降りてきた斜面を登っていった。
我々は赤木岳のひとつ手前のピーク(2600M)まで尾根を進み、そこから赤木平目指して滑降開始。ここは東斜面だけあって快適で、あっという間に赤木平の鞍部まで滑ってしまう。この後、赤木平を西側から大きく巻くようにして左俣出会いから延びている尾根にのり、そのまま出会いに滑り降りた(木村注:赤木平からの尾根筋を下れば、疎林帯を滑ることが可能。沢筋を滑るより快適のようだ。われわれは、林間を滑ったが、それはそれで楽しかった)。このあと薬師沢を詰める。途中で、雷が鳴り出す。14:00太郎平小屋到着。
靴とシールを乾燥室にいれ部屋に入る。小屋の中は寒く、夕食までの間ストーブが入っている談話室で暖をとりお茶を飲んだりして過ごす。
6時夕食。久しぶりの味噌汁がおいしい(木村注:5杯飲んだ人は誰?)。9時消灯。
黒部五郎山頂へ
6:00朝食。7:30出発。快晴。薬師峠を通り薬師岳山荘に9:00着。稜線を進むにしたがって風が強くなる。上から何人かが滑ってきていたがまだ薬師沢に入った人はいないようだった。下から見上げるといかにも滑りたくなる沢だ。薬師沢を右手に見ながら10:00避難小屋着。上は飛ばされそうなほどの強風が吹いていた。とても薬師沢の源頭に回り込める状況ではなかった。時間が早かったので暫く様子を見ることにし石積みの小屋の陰で風を避け休憩。
30分ほどしても収まる様子がなかったので、まず登ってきた尾根を下って入れるところから谷に滑り込むことにして木村Lを先頭に滑降開始。100M程下ったところで木村Lが谷に滑り込めるラインを見つけ、そこから谷に滑り込む。雪質はグー。誰も滑った様子も無くおまけに急斜面が続いている。今回のツアー一番の快適斜面だ。広い谷の中を3人で思い思いに滑る。2500Mまで滑ったところで雪が重くなり始め急にスキーが走らなくなる。雪が腐ってきたので谷の滑降を切り上げることにし、谷のど真ん中でしばし休憩をしたあとに、トラバースをして薬師平に出る。薬師平からは登ってきたコースを滑って12:40小屋着。
後片付けをした後に日当たりのよい談話室で寛ぐ。6時夕食。ご飯と味噌汁はお替り自由で食が進む。夕食後にテレビの天気予報を確認する。前日の予報では明日は下り坂で午後から雨が降り出しそうだったが、崩れるのが遅れて明日1日はもちそうだったので一安心。
薬師沢を滑る
下山の日。6:00朝食。入山の時に比べたらかなり軽くなったザックを背負って7:00出発。天気は下り坂だが昨日の晴天がそのまま続いていた。北の俣岳8:50着。北の俣避難小屋 まで広い尾根筋を滑る。寺地山の登りでシールをつけ、10:15寺地山着。往路をそのままたどったが尾根筋の残雪がこの一週間でかなり融けており周りの風景が登ってきたときとは違った印象だ。ここで、携帯電話でタクシー会社に連絡を入れる。最後2キロほど手前からスキーを背負って夏道を歩く。いったんトンネルの上を通過して道路に下りる。
12:30飛越トンネル着。一週間ぶりにみる景色はすっかり変わっており、道路にはまったく雪がなくなっていた。木村は、蕗の薹の採集に励む。これで、7泊8日の北アルプス黒部スキーツアーが無事に終了した。
(室岡 記)
ツアー終了
〔山行を振り返って:木村L〕
GWをフルに使った山行を計画したものの、果たして、気力が続くものかちょっと心配でした。特に、今回は、避難小屋に4泊(結果として5泊)の計画。食料の量が大変であることが目に見えていましたが、乾燥食料を中心にしたメニューを田中さんが見事に作成してくれました。団体装備を多く引き受けたので、個人的には、徹底的に軽量化を図り、個人装備はぎりぎりまで減らしました。
滑りは、予想したとおりで、日数の割りに滑った距離は少なかったのですが、それでも、何度か「やったぁー!」と、言えるすべりを楽しむことができました。使った小屋は、人数が限られており、早くに締め切ったことと、メンバーをかなり限定せざるを得なかったことや、全体として三つの班に分かれてしまったことなどありましたが、土屋さんを含めて、田中さんと室岡さんとの山行は、本当にメンバーに恵まれました。実に、楽しいGWの山スキー山行でした。北アルプスのど真ん中で過ごして日々は、本当に、とてもよい思い出になりました。
〔山行を振り返って:田中〕
今シーズンは諸事情により、ほとんど滑っていないので、6泊7日という日程と体力面で心配しましたが、木村リーダ、室岡さん、現地合流の土屋さんのサポートにより、何とか滑りきることができました。ありがとうございました。
特に初日にストックを折ってしまった時、三俣蓮華への硬斜面トラバースの時にはご迷惑をおかけしました。また同じ斜面でも斜面の向き、時刻、風向きによりコンディションが全く違うことを身をもって感じ、自然の中でのスキーの奥深さを改めて思いました。
黒部五郎周辺は本当に素晴らしい所です。数年後にいろいろな面でパワーアップしてまたすべりに行きたいと思っています。
〔山行を振り返って:室岡〕
初めての北アルプス。それもいきなり6泊7日(結果的に7泊8日)のスキーツアー。木村さんのGW黒部山行にエントリーしたものの、体力の無い私がやれるかどうか最後まで心配だった。おまけに春先までずっと仕事がタイトだったせいで体調が万全でなかった。
多少のトラブルはあったが、結果的に無事に終わることが出来た。木村Lと田中さんに感謝。体力的には最初の2日間がきつく、特に2日目の黒部五郎への登りは大変苦しかった。
また、小屋を起点にした2日間の日帰りツアーは滑りを十二分に愉しめた。やはり軽装で滑るのが愉しい。テレマークは特にそうかもしれない。
今回のツアーの滑降ベストスリーは、薬師沢、祖父岳北面、赤木岳東面。薬師沢は源頭から滑り込みたかった。残念。