黒部五郎岳周辺
北アルプス南部での滑降を満喫
2002年4月27日(土)〜5月1日(水)
●参加3人 青木和人(L 記録)、大坪俊郎(食当)、森達男(記録)
費用概算(1人あたり):約\25,000
交通費:列車\9,000(+\5,600) タクシー \4,000 バス\900(+\5,700 or +\2,300) 食費等:\6,000
当初3日間は天気に恵まれ、北俣岳から赤木谷源流、五郎岳からカール、祖父岳から岩苔小谷、祖父谷への滑走を楽しんだ。最終日は曇、ガス、雨、快晴と目まぐるしく天気が変化したが、最後に弓折岳から1000mの滑降ができ、満足できる山行となった。雪は昨年より少なかったが、回転しやすい適当に柔らかい雪質であった。登行は、ツボ足が長かった。宿泊は、避難小屋にしては整備されており、快適に過ごせた。食事はバラエティに富み、美味しく、これも満喫できた。
4月27日 晴、風なし ……歩き ――滑降
飛越トンネル手前9:10…トンネル入口9:35…シール登行開始10:15…寺地山14:15〜35…北ノ俣避難小屋15:00
タクシーで飛越トンネルへ。かなり手前で雪が道をふさぎ、降りて歩く。雪がなく夏道が出た飛越新道を45分程で雪の斜面に到達し、シール登行に。稜線まで登ると、アップダウンの繰り返しが続き、飽きる頃に神岡新道と合流。寺地山から小屋は遠くないが、アップダウンと共に、滑り易く、苦心しながら樹林帯を抜けた。が、小屋がない。埋まっているかと思いきや、右下斜面に見つけて安堵。
小屋は10人位で満杯だが、銀マットが敷かれ、暖かく、快適でよかった。遅く着く場合は、小屋に泊まれないことも念頭に。関西グループがてんぷらをやっていて、思わぬおすそ分けを頂いた。
遠く、槍ヶ岳を望む
4月28日 晴、風なし
北ノ俣避難小屋6:20…北俣山頂8:20〜9:20―赤木沢源頭9:35…黒部五郎岳下(2520m)11:15〜12:10…五郎岳山頂13:00〜30―黒部五郎冬季小屋14:00
冷え込みのせいか、雪が硬く、やや急登が続くため、小屋からクトーを付けて高度を稼ぐ。標高を上げ太郎との分岐に出て、180度以上の眺望を楽しむ。薬師、五郎岳は滑りたくなるような山だ。北ノ俣山頂まで稜線を歩き、到着。2〜3パーティーがここらを滑って戻るようで、抜けるのは我々を含めて数名であった。
山頂からすぐに東南下にコースをとり、広い斜面を思い思いに自由にコースをとって飛ばす。赤木沢源頭付近まで下って、登り返しを考え滑走をやめた。この周辺は北俣山頂からどこにでもski downでき、じっくりと滑ってもみたい斜面が沢山あり、1回の滑走だけで通過するのはもったいない。広い斜面を切りながら一路、五郎岳を目指し登る。時間的に余裕もあってのんびり。景色を楽しむことができた。
さあー、これからが、今日のハイライト。右よりの斜面を、一歩一歩着実に、滑落防止を考えながら登っていく。上部は適度にしまり、滑落の危険は感じなかった。山頂からの眺めは、槍、穂高、笠、水晶など絶品。尾根を滑るかカールを滑るか迷うが、カールは戻らないといけない。尾根も滑れそう。尾根を滑り、板をはずして、歩いて再度滑走に入るが、かなりの急斜面。慎重に大きなターンを左右に繰り返し、カールに滑走できる部位を見つけ、一気に滑り落ちていった。雪も適度に柔らかく、スムーズに回転でき、滑りやすく快適であった。途中から斜滑降で距離を稼ぎ、小屋の上に出た。最初からカールに滑り込まなかったことに未練が残ったが、楽しい一日であった。この小屋も整理整頓されており、マナーの良さを感じた。今夜の住人は7名。
4月29日 快晴、風なし いつまで続くかこの天気
黒部五郎冬季小屋7:10――五郎沢出合7:20…祖母沢経由…雲ノ平小屋9:40…祖父岳11:10〜12:00――岩苔小谷源頭12:10…祖父岳山頂下13:10――祖父沢経由――五郎沢出会14:00〜30…黒部五郎冬季小屋15:30
明日は天気が悪くなる予報で、黒部五郎岳山頂経由ウマ沢滑走を変更。祖父岳へのコースにした。朝一番は雪が硬く、五郎沢を慎重に出合まで滑る。祖母沢出合は渡れず、上部から渡り沢に出て雲ノ平に向かって高度を上げる。雲ノ平で小休止後、祖父岳を目指した。ハイマツを抜けるあたりから、雪の硬いところ、腐っているところが交互に現れ、斜度もきつくなった。クトーの力を借りコースを左にとり、巻くように頂上着。水晶岳が間近に見え、西側に滑れそうな斜面があり、心が動いた。
岩苔谷に飛び込む。山頂直下は急で、硬い雪に戸惑いながらも高度を下げ、標高差200m程で滑走を止めた。嫌な登り返しが待っており、岩苔乗越を止め、登り返すことに。急斜面のため、左から巻くように登った。頂上直下から左に斜かりながら、祖父谷に向かって滑り落ちていく。表面がやや固いところがあり、強引な回転で谷に入っていく。あとは、一気に五郎沢出合に滑り込む。
ここで、長坂グループと会う。我々は五郎沢を上がる。雪は腐っており、暑さを感じながら登っていく。あそこを越えれば小屋は見えると自分に言い聞かせていくが、思いのほか遠かった。五郎沢出合から五郎岳からの尾根を見上げると、何と真上から綺麗なシュプールが二本もついているではないか。このシュプールは冬季小屋の住人のものであることが、あとで判明した。
4月30日 夜来の雨のため停滞
普段、何もしないで一日ボウッしたいと願っていたのが現実となり、この上ない贅沢を味わった。しかし、よく雨が降ったし、天気予報が当たった。明日、下山を決める。
5月1日 曇り、ガス、雨、快晴と目まぐるしく変化、午前は風強し
冬季小屋7:30…三俣蓮華岳山頂9:40――双六小屋11:15〜50…弓折岳13:35〜14:10――秩父沢出合14:40――ワサビ平小屋15:00==新穂高温泉16:00
朝、雨はあがった。シールが板に貼りつかない。屋外に置いた板が冷えすぎ、糊が効かなくなったようだ。手で板をこすったり、ホッカイロで温めたりして何とか貼る。ガスの中、三俣に向けて急坂を、ステップを切りながら登る。しばらく行くと、青木さんのシールの片方が完全に外れ、ツボ足歩行に。春の悪雪にズボズボはまりながら、雪庇を回避しながら登る。森もシールも剥がれ、ツボ足に。大坪さんは、剥がれず快調に登っていた。やはりシール登行が楽だし、時間も短い。見通しの悪い中、三俣山頂につく。休む間もなく、双六小屋へ滑走できるところまで歩く。
丸山を通過する地点で滑走態勢を整え、滑り出す。ガスが依然としてあたりを覆い、方向が定まらず、真っ直ぐに降り過ぎ、トラバースをしながら小屋付近に着いたが、見えず、最後はGPSで確認した。このころから、雲が切れ始めた。小屋で、新穂高温泉への下りを相談。昨日の雨と気温上昇を考えると、オオノマ乗越に行くより、夏道を弓折岳に行って滑りおりる方が良いと助言される。
双六岳からの美味しい斜面を右手に見ながら下山開始。少し滑って、板を担いで歩き始めた。快晴となり、暑いながらも、槍から穂高への稜線の美しさに魅了され、稜線のアップダウンを繰り返し、弓折岳着。
ここから、標高差1000mの滑走だ。雪は悪い。重たく、腐っていて、回転すると雪がボールになり、後からころころと転がってくる。下っていく。ひざが疲れていて、途中何回か止まりながら下る。秩父沢出合には大きな雪崩によるデブリが出来ていたが、板を脱ぐことなく滑走でき、助かった。途中、1箇所、デブリで板をはずしたが、ワサビ平小屋の下まで滑走できた。林道を歩き、新穂高温泉バスターミナルで山行を終えた。
(記録:青木)
森さん(左)と大坪さん
記憶と読図 =青木和人=
今回のルートファインディングのポイントは、2つの小屋を見つけることと双六への下りと想定していた。幸い、5月1日以外は好天に恵まれ、地図と首っ引きの事態にはならなかった。
三俣蓮華を越して双六への下り。出発時わずかに晴れ間が出た空も、三俣蓮華を越す頃には寒冷前線後面のガスと風が濃くなり、昨年と同様、視界がきかなくなった。2854mの南北に伸びた頂稜から双六の巻き道までの下りの記憶が抜け落ち、雪庇の切れ目がもう少し降りやすければ、記憶優先で、すんでのところでカールへ降りるところであった。地図では100m程降りきって左に露岩を見てトラバースになっており、現状と一致していた。
そして、双六を1/3周迂回し双六小屋への下り。記憶の頼りと双六谷へ降りず夏道への意識が過剰で、GPSの表示にもかかわらず、稜線手前の緩い尾根状の斜面を廻り込むのに躊躇し双六のコルへの西大斜面の滑降を逃してしまった。
いずれも狭い視界ながら、平坦な雪原ではないので、登り降りと方向を地図上で同定すれば、現在地の確認は困難ではなかったであろう。
また、ガスの中ではなかったが、初日の北ノ俣小屋は鞍部から登り始めた斜面から左手に見えて谷間にひそやかに沈んでいる記憶ではなかったが、地図上では確かに窪みに位置している。
なまじ記憶があるとそれにとらわれ、丹念に地図を読まない傾向になる。本来は逆に、地図上の同定を記憶で補完し確実にすることであろう。雪の状況で傾斜の感じは相当変わるが、森林帯を除けば2万5千図はまず正確だ。常に地図と現在地の同定をすることが、豊富な経験を積むことになる。